2022年11月FOMCについて解説

11月1~2日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、前回と同様に政策金利を0.75%引き上げる判断が下されました。

「利上げ幅は大方の予想通り」という声もありますが、今回のFOMCの決定を受けてNYダウは前日比から500ドル以上下落しました。

しかし、パウエル議長は記者会見において、「利上げを緩める時期を模索する」ことも示唆しています。

つまり、インフレの状況を見ながらにはなるものの、「今後の利上げに対するスタンスが徐々に変わる」ことも期待されています。

今回のFOMCで決定された内容や記者会見のコメント、また今後の影響や展望について見ていきましょう。

目次

0.75%の利上げ継続・世界8割で不況予測

11月1~2日にFOMCが開催され、FRBのパウエル議長は前回と同じく0.75%の利上げとインフレを抑制するための強い意志を、改めて示しました。

0.75%の利上げは4会合連続で、アメリカでは8%近いインフレが起こっていることもあり、引き続きインフレ退治を最優先に行う考えです。

その結果、金融引き締めの継続を警戒する投資家の売りが優勢となったことで、2日のNYダウは前日比505ドル44セント安となりました。

パウエル議長は、記者会見において「実際のところ、現代経済においてこれほど高いインフレ率のデータがあまりない」「景気後退が起こるかどうかは誰にもわからない」「物価の安定を回復するには、当面の間金融引き締め姿勢を維持する必要がある」と述べており、今後の経済の不透明感は強いです。

利上げの停止に関する議論については「時期尚早」と述べていることから、世界経済の波乱や停滞リスクは相変わらず高いと言えるでしょう。

また、ドル高が続いている状況を受けて、「強いドルはいくつかの国で試練となっている」と述べています。

これは、新興国や途上国が抱えているドル建て債務の返済負担が高まり、デフォルトに陥ってしまう可能性を示唆したものです。

さらに、世界景気の先行指標である経済協力開発機構(OECD)の景気先行指数では、9月は好不況の分かれ目である「100」を下回った国が31カ国にも上り、82%にも及んでいます。

このデータは、「世界8割で不況が予測される」ことを意味しているため、今後の世界経済の展望はかなり暗いと言わざるを得ません。

アメリカ経済の減速

アメリカでは相変わらず高いインフレが継続していることもあり、アメリカ経済は大きく減速しています。

インフレが起こることで実質的な可処分所得が減少し、財布の紐が固くなって個人消費が大きく落ち込んでいるためです。

また、利上げに伴う住宅ローン金利の上昇を受けて住宅市場も著しく弱まっており、金利上昇から企業の設備投資も消極的になっています。

つまり、個人消費も企業の設備投資も落ち込んでいることから、アメリカ経済を悲観する声は多く出ています。

記者会見の質疑応答

続いて、パウエル議長の記者会見の質疑応答について見ていきましょう
実際のコメントから、物価や利上げに対する考えを伺い知ることができます。

12月の次回会合までにインフレ指標が改善すれば利上げペースを緩める可能性があるのか?

「インフレ目標である2%まで下げるために十分な引き締め水準をどう判断するかは、実体経済やインフレへの影響を評価し、関連するあらゆるデータを考慮する。

イールドカーブ(利回り曲線)や実質金利など、金融市場の状況も見ていく。利上げペースの減速が適切となる時期はいつか来る。早ければ次の会合、もしくはその次かもしれない。」

利上げの必要はないと考える金利水準は?

「実質金利がプラスになる水準まで政策金利を引き上げたいが、それだけが利上げの目安ではない。」

景気のソフトランディングは可能か?

「可能だ。金利が上がり高止まるほど可能性は狭まる。
過去1年で確実に狭まったといえる。
インフレ率は下がってきているが、我々の期待したほどではなく、より引き締めざるを得なくなっている。」

インフレ率が高止まりするリスクは?

「高インフレが1年半続いているわけだが、どの時点で高インフレが定着するのかを判断する科学的な方法はない。従ってリスク管理の立場から我々のツールを思慮深く使う」

世界経済をどうみているか。

「難しい局面にあることは明らかだ。
欧州ではロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が上がり、高インフレが起きている。
中国はゼロコロナ政策で成長が鈍っている。
ドル高が試練となっている国もある。米国経済は強いが、インフレ抑制のため手段を講じる必要がある。
米国の物価安定は長期的に世界経済にとって良いことだ」

以前は、金融引き締めが多少強すぎた方が弱すぎるよりリスクが低いと述べていたが、今はどう考えているか?

 「私の見解は変わっていない。インフレを抑えるまで変わらない。強すぎる金融引き締めを行うつもりはないが、過剰であれば対応する。逆に、引き締めが弱すぎて高いインフレが長期化すれば、そのときは戻れない。インフレ抑制は道半ばにある」

今後の日本経済とアメリカ経済の展望は?

FOMCは、アメリカ経済だけでなく日本経済や世界経済にも大きな影響を与えます。
パウエル議長の発言から、今後の経済にどのような影響が見込まれるのか、解説していきます。

利上げペースは今後弱まるか?

パウエル議長は、記者会見において「早ければ次回12月の会合で利上げペースを緩める」可能性について示唆しています。

ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギーや食品のインフレが収まる気配が無く、住宅ローン金利も大きく上昇して住宅市場の落ち込みが激しいです。

実際に、声明文中には、今後の利上げペースの決定について「金融政策が経済活動や物価に影響を及ぼすのに時間差がある点を考慮する」というコメントがあります。

これは、「利上げによる金融引き締めが強すぎて、景気をオーバーキルしてしまう」というリスクを念頭に置いています。

現在の利上げ方針(金融引き締め)を「どの時期まで続けるか」という問題も意識していることから、今後の景気を楽観視するエコノミストがいるのも事実です。

しかし、パウエル議長は金融引き締めを「道半ば」と表現していることから、金融引き締めの効果が出てインフレ率が実際に低下しない限りは、しばらく金融引き締めが継続するとみるのが妥当です。

次回のFOMCは12月13~14日ですが、引き続き0.75%の利上げとなるのか、利上げ幅が縮小するのかは要注目です。

日銀の緩和縮小もFRB次第か

日本が目下抱えている問題は、急激な円安です。

円安が起こる要因は国の成長力や政治リスクなど様々ですが、現在の円安の大きな要因となっているのは「日米の金利差」です。

日本は金融緩和の継続を行っているため、アメリカが利上げをすればするほど日米の金利差が開くことになります。

つまり、FRBの利上げシナリオが円相場に大きな影響を与えることから、FOMCが日本経済に与える影響は大きいです。

円ドル相場は2022年3月「1ドル115円」程度で推移していましたが、2022年10月は「1ドル150」程度に急落しています。

高い利回りが見込めるドルに投資マネーが流入し、利回りが低い円が嫌われる構図はしばらく続きそうです。

12月のFOMCで、FRBがさらに利上げを行うようであれば、示唆するようなら、円安がさらに進み「1ドル=160円」という次の円安水準に向かう可能性があります。円安が続けば日本でもインフレが起き、家計をじわじわと圧迫することになるため、個人消費にも大きな影響を与えるでしょう。

円高に向かうシナリオもある

利上げを継続する方針のFRBですが、FRB内にはアメリカ国内の景気が急減速してしまうリスクを懸念する声があるのも事実です。

もちろん、インフレの沈静具合によるものの、当初の想定より早く利上げがストップする可能性もあるため、もし利上げのスピードが緩めば円高方向にシフトする可能性があります。

日銀が継続している大規模な金融緩和もアメリカの景気・FRBの金融政策に大きく左右されるため、アメリカ経済は円相場に大きな影響を与えることが分かります。

逆に、FRBが利上げのスピードを速めると一段と円安が進むことが想定されますが、日銀が円安と物価高を看過できない状況になれば、金融緩和の縮小が進む可能性も考えられるでしょう。(もちろん、為替介入が行われる可能性もあります)

現在の黒田東彦日銀総裁の任期は2023年春で満了となるため、次期体制の方針次第では大規模緩和の見直しに動く可能性も否定できません。

このように、円相場の変動に伴う実生活への影響は、様々な要因が複雑に絡んでいるため、経済のニュースに対して常にアンテナを張っておくと良いでしょう。

11月のFOMCまとめ

 FOMCは、日米の株価・債券価格だけでなく実体経済にも大きな影響を与える重要なイベントです。

今回のFOMCでも0.75%の利上げが行われることになりましたが、前回とは異なり「利上げのスピードを緩める」ことに言及した点は、大きなポイントと言えます。

 基本的には、「日本は金融緩和を継続し、アメリカは利上げを継続するため、アメリカの景気後退と円安トレンドは変わらない」と想定できます。

次回のFOMCは12月13日~14日にかけて行われるため、利上げの幅はどうなるのか、今後の見通しはどう考えているのかなどに注目しましょう。

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