伊藤忠・丸紅・三井物産・中間決算と業績を徹底解説

前回は三菱商事と住友商事について解説してきましたが、今回は三井物産・伊藤忠商事・丸紅に関する解説をしていきます。

いずれも日本を代表する総合商社で、投資先としての魅力も十分にある企業です。

商社株の買い増しや新規買付を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

また、2023年3月期の中間決算についても解説していくので、併せて参考にしてください。

目次

三井物産の事業内容

三井物産(証券コード8031)は日本を代表する三井グループ中核の総合商社で、「トレーディング」と「事業経営・事業開発」を成長の軸とするビジネスモデルを展開しています。

鉄鉱石、原油の生産権益量は商社断トツで、インフラ等にも強みがある点が特徴です。

セグメントは下記の7種類に分かれており、様々な分野において事業展開していることが分かります。

金属資源セグメント

金属資源では、事業投資・開発やトレーディングを通じて、産業・社会に不可欠な資源、素材、製品の確保と安定供給の実現を目指しています。

資源リサイクルなどの環境問題にも積極的に取り組んでいます。

エネルギーセグメント

石油や天然ガス(LNG)、石炭、原子燃料などの事業投資や物流取引を通じて、エネルギー資源の確保と安定した供給体制の確立を目指しています。

地球環境にも配慮しており、低炭素社会の実現に向けて次世代電力(分散太陽光・EV・蓄電池・エネルギーマネジメント・地熱発電など)や次世代エネルギー(水素・アンモニア・バイオ燃料など)、低炭素ソリューション(CCS/CCUSなど)などの事業創出も行っています。

機械・インフラセグメント

機械・インフラセグメントでは、発電事業、電力・ガス・水の供給、鉄道、物流インフラなど、社会インフラの長期安定的な提供を行っています。

また、大型プラント、海洋エネルギー開発、船舶、航空、鉄道、自動車、鉱山・建設・産業機械など幅広い分野で、販売やリース業、事業投資も行っています。

化学品セグメント

化学品セグメントでは、基礎化学品や無機原料などの川上領域に加えて、機能性素材、電子材料、スペシャリティケミカル、農業資材、人・動物向けの栄養・健康事業などの川下領域まで展開しています。

他にも、プラスチックリサイクル事業や水素・アンモニアなどの次世代エネルギー事業、タンクターミナル事業、森林資源・カーボンクレジット事業など、環境に配慮した事業を行っている点も特徴です。

鉄鋼製品セグメント

鉄鋼製品セグメントでは、モビリティ・インフラ・エネルギー・流通の4領域において、産業課題・顧客の潜在的ニーズを先取りしたモノ・コトの創出を図っています。

鉄鋼製品は生活に密接に関わっているため、身近なところでも三井物産の鉄鋼セグメントによる恩恵を受けることができます。

生活産業セグメント

生活産業セグメントでは、食料品、マーチャンダイジング、リテール、ウェルネス、ヘルスケア、医薬、ホスピタリティ、人材、ファッション・繊維などの事業分野で、生活を向上させるサービスの創出を行っています。

消費構造やライフスタイルの変化に対応しながら、暮らしのニーズに応えることで付加価値のある商品・サービスの提供、事業開発、投資などを行っている点が特徴です。

次世代・機能推進セグメント

次世代・機能推進セグメントでは、ICT、金融、不動産、物流などの領域で次世代に関連した事業を展開しています。

デジタルトランスフォーメーションにも取り組み、業務の効率化などをサポートしつつ先進的機能を提供しています。

三井物産の2023年3月期の中間決算

三井物産の2023年3月期の中間決算は、下記のように発表されています。

・連結収益は7兆4238億円で前期比37.07%増となり、親会社の所有者に帰属する当期利益は33.23%増の5391億400万円
・親会社の所有者に帰属する当期利益の通期予想を9800億円と見込み、中間までの進捗率は55.01%
・2023年3月期最終利益予想を8000億円から9800億円に上方修正
・中間配当を直近の予想である「60円」から「65円」へ増額(増配)

2023年3月期は順調に推移しており、中間配当も増額となりました。

円安という追い風もあって事業は順調に推移しており、前から三井物産の株を保有していた方にとってはポジティブなニュースが多いと言えるでしょう。

原油・ガスなどのエネルギー資源価格の上昇を受けて、連結子会社の三井石油開発やMitsui E&P USAの利益が増えたことで、好調な決算となっています。

 しかし、世界経済は、米欧の高インフレと金融引き締め、ロシア・ウクライナ情勢や中国のゼロコロナ政策などの影響もあり、景気の減速感が強まっています。世界景気の先行きは「減速を余儀なくされる」とみられており、今後の世界情勢が企業収益に大きな影響を与える点は押させておきましょう。

三井物産の財務データ

出展:バフェットコード

自己資本比率は37.77%となっており、商社系企業の中では一般的な水準です。

なお、三井物産の自己資本比率は右肩上がりになっており、安定性が高まっていると言えます。

ROEは15%を超えているため、効率よく稼いでいるという点では非常に魅力的なデータとなっています。

PERは6.13倍、PBRは1倍で、そこまで割安感は感じない水準で、配当利回りも3.39%なので、財務データを見る限りは「様子見」が無難なポジションと言えます。配当性向は20%台と全く無理の無い水準なので、「タイミングを見計らって購入し、その後はひたすら保有」というスタンスに適しています。

三井物産の売り上げ・利益の推移

出展:バフェットコード
出展:バフェットコード

売上高、EPSについて見てみると、景気に敏感な商社株なだけあって安定感には欠けているものの、長期的には右肩上がりとなっています。

先述したように、2023年3月期の中間決算は順調ですが、ウクライナ情勢や米欧の金融引き締めなどの影響から、世界経済の見通しは暗いです。

そのため、世界情勢や世界経済に関するニュースに注目しつつ、第3Qの決算を注視する必要があるでしょう。

三井物産のキャッシュフロー

2010年以降、三井物産の営業活動によるキャッシュフローはプラスとなっており、安定して稼いでいることが分かります。

投資活動によるキャッシュフローや設備投資を見ても分かるように、利益は株主に還元しつつ、事業拡大のための投資に充てています。

フローキャッシュフローも安定してプラスで、1兆円を超える現金等を保有していることから、長期保有に適しているキャッシュリッチ企業と判断できるでしょう。

三井物産の株価推移

ここ5年の株価推移は上記の通りで、三井物産の株価は2021年初頭以降に大きく値上がりしています。

ウォーレン・バフェットが日本の商社株を購入したこと、企業決算が順調であることで、このような株価推移となっています。

チャートを見る限り「高値づかみになりそうで怖い」「心理的に買いづらい」というのが正直なところでしょう。

コロナ前の配当利回りは4%を超えており、コロナショック時には5を超えたことを考えると、今の三井物産の配当利回りは「魅力的ではあるけど、物足りない」と感じられます。

三井物産の中期経営計画

三井物産の中期経営計画は、2023年が最終年となっており、翌年以降に新たな中期経営計画が立案されます。

中期経営計画において「経営と社員が一体となり、自らを変革させ、激変する事業環境とニーズに機敏に対応し、社会の発展に貢献していくこと」を目指しています。

具体的には、コスト削減と下方耐性の強化、デジタルエコノミーへの迅速な対応を掲げており、さらに下記6つの「Corporate Strategy」を策定しています。

・事業経営力強化
・財務戦略・ポートフォリオ経営の進化
・人材戦略
・Strategic Focus
・基盤事業の収益力強化と新事業への挑戦
・サステナビリティ経営/ESGの進化

特に、「財務戦略・ポートフォリオ経営の進化」では「新中期経営計画期間の配当は、一株当たり80円を下限とし、資本効率の向上を意識した株主還元を進め、同時に財務基盤の維持・向上も図ります。」とあるため、株主還元にも積極的に姿勢が見て取れます。

また、「自社株買いについては、事業環境、資本効率、株価水準等を勘案し、機動的に実施していきます。」とあるため、安定して配当を得たい投資家にとっては非常にありがたい目標となっています。

伊藤忠商事の事業内容

伊藤忠商事(証券コード8001)は繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融などの幅広いビジネスに携わっており、国内だけでなくグローバルに展開している大手総合商社です。

繊維や食料、中国に強い点が特徴で、傘下にファミリーマートなどの有力企業も抱えています。

人々の暮らしを支える様々な商品やサービスを提供するべく、原料等の川上から小売等の川下まで事業領域としている点が特徴で、下記のセグメントに分かれます。

・繊維カンパニー:ファッションからハイテク資材などを取り扱う
・金属カンパニー:鉱物資源の開発と安定供給を通じて、世界の経済発展と環境保護へグローバルに貢献
・食料カンパニー:食料原料供給、製造・流通等を通じて食の安全・安心に貢献しながら、グローバルに展開
・機械カンパニー:大型プラントやインフラ、航空機、船舶、自動車、建機、産機、ライフケアなどを取り扱う
・エネルギー・化学品カンパニー:幅広いバリューチェーンを活かして、エネルギー・化学品の価値創造を行う
・住生活カンパニー:生活資材関連から住宅の開発や販売をグローバルに展開
・情報・金融カンパニー:ICTやBPO等のサービス分野を核としたビジネス開発機能と顧客網を活かし、新たな市場の創出と拡大を行う
・第8カンパニー:生活消費分野に強みを持つ様々なビジネス

8月に岡山県で国内最大級の蓄電池工場建設を目指す電池会社に出資し、成田では6月からUAE国営航空に廃油・植物燃料(SAF)の供給を開始するなど、環境にも配慮して事業を展開しています。

伊藤忠商事の2023年3月期中間決算

伊藤忠商事の2023年3月期中間決算、下記のように発表されています。

・2022年9月期における中間の連結収益は6兆9921億円で前期比19.02%増
・親会社の所有者に帰属する当期利益は3.51%減の4830億3100万円で着地
・売上高営業利益率は前年同期の5.18%から5.56%とほぼ横ばいで推移
・親会社の所有者に帰属する当期利益の通期予想を8000億円と見込み、中間までの進捗率は60.38%
・2023年3月期のいずれも従来予想を据え置き

5大商社の中でも、伊藤忠商事のみが「利益が微減」となっており、やや気になるポイントです。

三菱商事や三井物産と比較して伊藤忠商事の決算が見劣りしてしまう理由は、「伊藤忠商事は資源事業の割合が三菱商事・三井物産よりも低いから」です。

しかし、伊藤忠はグループ会社の収益管理を徹底して着実に収益を積み上げられる強みがあります。

そのため、他社商社と比較して中間決算が見劣りする点に関して、特段気にする必要はありません。

伊藤忠商事の財務データ

伊藤忠商事の財務データ化、下記のようになっています。

自己資本比率は約35%と、商社株の中では一般的な水準です。

ROEは15%を超えていることから、高収益企業と言えるでしょう。

PERは8.5倍、PBRは1.3倍となっており、データ上はそこまで割安感を感じません。

配当利回りは3.3%なので、「もう少し欲しいかな」というのが正直な感想です。

とはいえ、配当性向は約20%とかなり余裕がある水準なので、増配余地は大きいと言えるでしょう。

2015年以降は増配を続けていることから、データ的にも株主還元に積極的な姿勢を示しています。

なお、総資産と自己資本比率は右肩上がりで増えているため、財務の安定性に関しては優れていると評価できます。

伊藤忠商事の売り上げ・利益の推移

伊藤忠商事の売り上げ・利益の推移は、下記のようになっています。

出展:バフェットコード

2019年に売上高が10兆円を超えており、売上高とEPS共に長期的に見れば右方上がりです。

ROEが高く効率よく利益を上げられるビジネスモデルを築いていることから、今後も安定して稼いでくれることが期待できます。

伊藤忠商事のキャッシュフロー

2010年以降、営業活動によるキャッシュフローはプラスが続いており、効率よく事業投資に充てられていることが分かります。

また、近年は借入金の返済も行っていることから、自己資本比率が年々上昇していることも見て取れます。

2017年以降、フリーキャッシュフローはプラスが続いており、現金等も豊富にあるため、安心して長期保有できる銘柄と言えるでしょう。

伊藤忠商事の株価推移

ここ5年の伊藤忠商事の株価も、三井物産と似たような動きをしています。

自社株買いなど株主還元に積極的であることに加えて、ROEが高く安定して稼げる自力があることから、安定して株価が上昇しています。

しかし、株価の上昇に伴って配当利回りは低下してしまうことから、高配当株投資家にとっては「買うべきタイミング」を見定めるのが難しいところです。

とはいえ、伊藤忠商事はコロナ前の配当利回りも3%台中盤だったため、欲を出さずに長期保有で購入するという選択もアリでしょう。

伊藤忠商事の中期経営計画

伊藤忠商事は、中期経営計画において「SDGs」への貢献や取り組み強化、「マーケットイン」による事業変革などを掲げています。

高ROE(13%~16%)の継続とEPSの持続的成長も計画に含まれており、引き続き高収益のビジネスモデルの確立を目指していることが分かります。

また、累進配当政策を取り入れ、2023年度は1株あたり130円を下限としていることから、株主還元にも力を入れていると言えるでしょう。

丸紅の事業内容

丸紅(証券コード8002)も日本を代表する芙蓉グループの総合商社で、下記のように手広く事業を展開しています。

・ライフスタイル
・情報・物流
・食料
・アグリ事業
・フォレストプロダクツ
・化学品
・金属
・エネルギー
・電力
・インフラプロジェクト
・航空・船舶
・金融・リース・不動産
・建機・産機・モビリティ
・次世代事業開発
・次世代コーポレートディベロップメント

事業は日本国内に留まらず、国外でも各種サービス業務、内外事業投資や資源開発等の事業活動を多角的に展開している点が特徴です。

また、穀物、発電で商社首位級となっており、プラントや輸送機、農業化学品に強みを持っています。

丸紅の2023年3月期中間決算

丸紅の2023年3月期中間決算は、下記のように発表されています。

・2022年9月期における中間の連結収益は5兆5951億円で前期比37.28%増
・親会社の所有者に帰属する当期利益は52.87%増の3146億5100万円
・売上高営業利益率は前年同期の2.92%から4.11%と改善
・親会社の所有者に帰属する当期利益の通期予想を5100億円と見込み、中間までの進捗率は61.7%となった。
・年間配当を1株あたり60円から75円へ増額

他の総合商社と同じように、丸紅も好決算です。
なお、オペレーティング・セグメント別の主な増益要因は下記のように説明されています。

・アグリ事業(442億円増益)旺盛な農業資材需要及び資材価格上昇を背景としたHelena社(グループ企業)の増益
・金属(327億円増益)商品価格の上昇に伴う豪州原料炭事業の増益
・エネルギー(304億円増益)石油・LNGトレーディングにおける増益及び原油・ガス価格の上昇等に伴う石油・ガス開発事業の増益

上記のように、資源高と円安が大きな増益要因となっています。

丸紅の財務データ

出展:バフェットコード

丸紅の自己資本比率は、27%と他の総合商社よりも低い水準にありますが、ROEは約15%と高い水準です。

効率よく利益を上げている点は魅力ですが、自己資本比率を重視して投資先を選定している方にとっては、やや気になるデータと言えるでしょう。

PER5.3倍、PBRは0.9倍となっており、そこそこ割安感を感じられる水準になっています。

配当利回りは4.9%、配当性向は25%程度と無理のない水準なので、配当に関しては魅力度が高いと言えます。

丸紅の売り上げ・利益の推移

出展:バフェットコード
出展:バフェットコード

丸紅の売り上げ・利益の推移に関しては「長期的には右肩上がり、ここ数年は横ばい傾向」です。

EPSも振れ幅が大きく、やや安定感に欠ける印象です。

現在の配当利回りは魅力的ではありますが、安定感を求める場合は丸紅以外の総合商社株の方がベターな選択、といった感じでしょうか。

丸紅のキャッシュフロー

2010年以降、営業活動によるキャッシュフローは毎年プラスとなっており、設備投資や借入金の返済を進めていることが分かります。

2016年以降、フリーキャッシュフローもプラスが続いているため、キャッシュフロー面ではかなり安定感があると言えます。

丸紅の株価推移

他の総合商社と同じように、2020年以降に上昇トレンドに乗っていることが分かります。

現在は1500円近辺となっており、チャートだけ見ると「今買いのは高値づかみになりそう」という印象がぬぐえません。

とはいえ、丸紅では2024年までは1株当たり年間配当金60円を年間配当金の下限とする方針です。

現在の配当利回りに魅力を感じ、「今後も長期的に配当を出してくれる」と判断する場合は、購入を検討する価値があります。

丸紅の中期経営計画

丸紅の中期経営戦略である「GC2024」では、「稼ぐ力の継続強化」「ROEの維持・向上」「株主資本コストの軽減」が掲げられています。

また、資本配分方針として「成長投資および株主還元を強化」を掲げており、具体的には「配当金の3カ年下限を設定し、機動的な自己株式の取得」を目指しています。

連結配当性向25%以上、かつ各年度の期初に公表する予想配当金を下限としつつ、1株当たり年間配当金60円を年間配当金の下限としています。

2022年2月には自社株買いを行うなど、株主還元には積極的なので、「安定した収益さえ上げられれば、長期保有に適している」と言えます。

三井物産・伊藤忠商事・丸紅のまとめ

三井物産・伊藤忠商事・丸紅の3つの総合商社の財務データや中間決算の結果などを解説してきました。

日本の商社株は高配当で、高配当株投資家から人気がありますが、買い時を探るのが非常に難しい特徴があります。

特に、今期は資源高や急激な円安など、例年とは異なるイレギュラーな出来事が起きている点には留意する必要があります。

総合商社株の買い増しや新規買付を検討している方は、財務データや決算の発表を参考にしつつ、購入のタイミングを探ってみてください。

いかがでしたでしょうか。
全力で銘柄を購入するタイミングは全体が下がっている時なので、購入するタイミングに関しては慎重に!

PERやEPSなどの解説はこちら→https://kohaitouburogu.com/high-dividend-stock/#index_id5
で解説してあります。

決算書の解説も記事出しています。→https://kohaitouburogu.com/kessannsyo/

基本的にはPER/PBR/自己資本比率/配当性向/配当利回り/EPS/BPS/ROE/減配がないか
をチェックしてから業種やチャートを見るようにしてます。
中小型株も同様です。

ではまた

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