日本は少子高齢化が進んでいるので、年金に関する不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
少子高齢化は日本のメガトレンドである以上、将来の年金支給額の先細りは避けられないと考えるのが自然です。
しかし、年金に関する正しい知識を身につけて、しっかりと必要な備えをすることで老後の生活不安を解消できます。
今回は、年金不安を解消する方法や、最近耳にする機会が多い「WPP戦略」について解説していきます。
繰り下げ受給できるように資産を作る
公的年金の標準的な受け取り開始年齢は65歳となっていますが、65歳に到達した後も、希望すれば繰り下げ受給をすることができます。
繰り下げ受給をすると、1ヶ月あたり0.7%の率で年金が増額されます。70歳から受給を開始した場合、65歳で受給できる年金額が42%増しされた年金を受給できることになります。
「無年金の期間を受け入れる」というリスクを負担することで割り増しされた年金を受給できることから、しっかりと蓄財をして「65歳から受給しないと生活できない」という状況に陥らないようにすることが重要です。
この割り増しされた年金額は一生涯続くので、まさに長生きリスクに備えられる優れた制度と言えるでしょう。
早い段階から老後資産作りに着手し、経済的にゆとりがあれば「繰り下げる」という選択肢を持つことができます。
なお、2022年4月からは、繰り下げできる上限年齢が75歳となったので、75歳から受給を開始すれば65歳時よりも84%増額された年金を一生涯受給できます。
近年は90歳~100歳まで生きることは当たり前になっているので、国も長寿化に備えて年金制度を適時改正していることが分かります。
繰り下げ受給を選択する人は少ない
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和元年度)」によると、国民年金分の受給権者3,392万人のうち、繰り下げ受給を選択した人は1.5%という非常に少ない数字でした。
これは、特別支給の老齢厚生年金(60~64歳から段階的に支給される年金)を既に受給している人が多いことが理由として考えられます。
特別支給の老齢厚生年金は繰り下げ受給ができないので、仮に繰り下げを希望していたとしても不可能です。
65歳に到達すると、繰り下げ受給を開始できるようになるのですが、「今までもらっていた年金をストップして、今後は繰り下げる」というのは、心理的に抵抗があります。
そのため、65歳以降も繰り下げを行うことなく、そのまま年金を受給する人が多いと考えられています。
今後特別支給の老齢厚生年金受給者は減る
特別支給の老齢厚生年金は、年金開始受給年齢を60歳から65歳へ引き上げる際の経過措置です。
そのため、今後は「年金受給開始は65歳から」と認識している人が一気に増えることから、繰り下げを真剣に考える人は増えるでしょう。
先述したように、繰り下げ受給を選択することで、年金がもらえない期間が発生してしまいますが、増額された年金が終身に渡って支給されます。
「早く死んだら損する」という可能性はありますが、増額された年金が終身に渡って受給できるという精神的な安心感は非常に大きいです。
そのため、65歳の段階で経済的な余裕がある場合は、65歳から年金を受給するのではなく、資金ショートに備えて繰り下げ受給を選択するのが合理的です。
繰り下げ受給を実現するためのWPP戦略
先述したように、増額された年金を終身に渡って受け取れるメリットは非常に大きいですが、無年金の数年間を過ごすための資金繰りができなければ、そもそも選択の余地がありません。
それでは、65歳の段階で経済的な余裕を持ち、繰り下げ受給を選択できるようにするためにはそのように備えれば良いのでしょうか?
WPP戦略とは
近年、老後生活の経済的なゆとりを実現するための「WPP戦略」という言葉が生まれています。
WPP戦略とは、下記の頭文字を持った老後資金戦略です。
W:長く働く(Work Longer)
P:私的年金(Private Pensions)
P:公的年金(Public Pensions)
つまり、できるだけ長く働き、リタイア後に公的年金を受給するまでの間は自分でこしらえた私的年金を活用し、公的年金の受け取りを最大限に遅らせるようにする手法です。
私的年金に関しては、金融機関や保険会社が取り扱っている個人年金保険を真っ先にイメージする人も多いでしょう。
しかし、iDeCoを活用したり、つみたてNISAでコツコツと形成したサインを取り崩すことも「一つ目のP」にあたります。
また、高配当株へ投資して安定的に配当金を得ることも私的年金に含めることができるでしょう。
早い段階からiDeCoやつみたてNISAを活用して資産を作ることで、「年金を繰り下げる」という選択肢を持つことが可能になります。
その結果、長生きリスクに備えることができるようになるので、一日も早く蓄財に着手することは非常に重要なのです。
60歳以降の生活は自分でカスタマイズできる
公的年金は、最短で60歳から受給する「繰り上げ」を選択することもできます。
しかし、繰り上げ受給を選択すると、1ヶ月あたり0.4%の割合で65歳時の年金か減額されてしまい、減額された年金が一生涯続きます。「人生100年時代」を迎えている現代においては、繰り上げ需給は賢い選択とは言えません。
そこで、できるだけ長く働いて資産を延命させるためにも「WPP戦略」を意識することが重要です。
できるだけ長く働くためにも健康寿命を延ばし、資産寿命を延ばすためにも税制優遇を受けられるiDeCoやつみたてNISAをフル活用するのは当たり前になっていくでしょう。
また、家計のキャッシュフローを強化するために高配当株へコツコツ投資することも、有意義な手段となります。
国も「貯蓄から投資」を後押ししており、65歳までの就労機会の確保などの施策を行っていることから、金融リテラシーを高めれば60歳以降の生活は自分で自由にカスタマイズできます。
具体的なWPP戦略
続いて、具体的なWPP戦略について紹介していきます。
働く期間を伸ばし、早い段階から蓄財することが代表的な手段となります。
自身のリタイア後のイメージに合っている物があれば取り入れてみてください。
働く期間を延ばす
以前は60歳で定年を迎えて、そのままリタイア生活に入るのがスタンダードでした。
しかし、現在は65歳までの雇用機会が確保されているので、65歳まで元気に働く人が増えています。(ちなみに、再雇用によって60歳時の賃金から大幅に賃金が減少した場合、雇用保険の高年齢雇用継続給付という給付が受けられます)
やがて「70代までの雇用確保措置」が義務づけられる可能性も高く、「働きたい場合は70歳まで働ける」という時代の到来も近いでしょう。
65歳以降も働く気力と体力があり、生活費を賄えるか稼得能力があるのであれば、できるだけ長く働いて公的年金を繰り下げることが有力な選択肢となります。
できるだけ長く働くことで、これまでに貯めた老後資産を取り崩すことなくキープできるので、老後の経済的不安を大きく軽減できるでしょう。
フルタイムでなくても、週に2~3日程度の就労でも貴重な収入となりますから、自分の体力や価値観に合わせて働くことを検討してみてください。
高配当株への投資
高配当株に投資すれば、公的年金の上乗せとして安定的な収入を得ることができます。
例えば、現役のころからコツコツと高配当株に投資して、リタイア時に3,000万円分の高配当株を保有しているケースでシミュレーションしてみましょう。
<配当利回りが4%の場合>
3,000万円×4%=120万円
税引き後約96万
公的年金に加えて、100万円以上の配当金がもらえれば、老後生活の家計が盤石になるのは言うまでもありません。
もちろん、高配当株の投資先は「企業」なので、倒産リスクや減配リスクなどが伴います。
しかし、現役のころから高配当株投資をおこない、「企業を選定する目」と「企業財務を見極めるスキル」を習得しておけば、リスクを軽減できるでしょう。
つみたてNISAやiDeCoの活用に加えて、高配当株投資の実践も、長寿時代における重要な資産形成手段です。
働かずに貯めた老後資金を取り崩す
65歳まで働き「あとは自分の時間を楽しみたい」と考えている人は、働かずにこれまでに貯めてきた老後資金を取り崩すスタイルがおすすめです。
この場合、勤労による収入が得られないので、リタイア時に「年金を繰り下げても問題ないレベル」の資産をこしらえる必要があります。
例えば、
65歳でリタイアして70歳から年金を受給するイメージを持っている場合は、無年金の5年間の生活を賄える資産があれば問題ないわけです。
当然のことながら、無年金の期間はこれまでに貯めた預資産が減り続けるので心理的に抵抗が大きいですが、強い意志を持って計画的に取り崩せば生活が破綻することはありません。
資産が減り続けるストレスに耐えられなかったとしても、「やっぱり68歳から受給しよう」という軌道修正も可能なので、自分の中で「プランB」を用意しておけば問題ないでしょう。
なお、無年金期間の生活費をこしらえる手段としては、
iDeCo
つみたてNISA(一般NISAでも可)
高配当株の配当金
個人年金保険
終身保険の解約返戻金
などが挙げられます。
自分の投資経験やリスク許容度などを鑑みて、最適な手段を組み合わせることが大切です。
年金不安を解消する方法まとめ
雇用の条件や投資環境によって、60歳以降の生活は異なります。
しかし、老後生活の経済的不安を払拭するための基本スタンスとしては「WPP戦略」のように、
上記のポイントを意識すると良いでしょう。
正しい知識と行動力があればお金の不安を払拭できるので、年金額の試算なども含めて自発的に情報を集めてみてください。
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